ブロックチェーンへの想いが、シンガポール起業に繋がった(ETHERSECURITY PACIFIC HOLDINGS/CEO・加門昭平さん)

ブロックチェーンへの想いが、シンガポール起業に繋がった(ETHERSECURITY PACIFIC HOLDINGS/CEO・加門昭平さん)
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世界で活躍するクリエイターに、海外で働く上でのキャリア論を語っていただく本企画『STORY』。ここでは、一歩先を行く先輩クリエイターのグローバルな挑戦を取り上げ、次のキャリアとして、世界で活躍することを目指す日本人クリエイターを、より多く輩出していくことを目的としています。

今回は、シンガポールでブロックチェーン関連企業を経営する、加門さんにお話を伺いました。農学を専攻していた大学・大学院時代にITに魅了され、ITベンチャー、IT大手企業でインフラエンジニアとしての経験を積まれた、加門さん。そんな中、ブロックチェーン技術に出会い、その可能性に魅せられて日本、そしてシンガポールで起業されました。


そんな加門さんに、シンガポールで起業・経営する中で学んだこと、苦労したことなどをお聞きしました。これからエンジニアとして海外で挑戦したい方、ゆくゆくは海外で起業に挑戦したい方は、是非ご覧いただければと思います。

加門昭平

京都大学農学研究科修士課程修了後、ITベンチャーに入社。10人未満の会社だったため、社内アプリの開発からセールス、バックオフィス全般に至るまで対応した。その後、2012年に株式会社サイバーエージェントにインフラエンジニアとして入社。2016年には、株式会社イーサセキュリティを東京にて創業し、ブロックチェーン・サーバ関連のコンサルティングやステーキング事業を行う。そして2018年、シンガポールに拠点を移し、Ethersecurity Pacific Holdings Pte Ltd(Singapore)を 創業。ブロックチェーンのリサーチ・コンサルティングやステーキング事業を行っている。(ステーキングサービス Stir の運営 (https://stir.network )ブロックチェーン特化型のメディア Stir Lab の運営 ( https://lab.stir.network ))

―インタビューをお受けいただき、ありがとうございます。早速ですが、まずはITやエンジニアリングに興味を持ったキッカケについて、お聞きできればと思います。

ITに興味を持ったのは、大学時代です。

と言っても、大学での専攻はITではなく、農学でした。大学院にも進学し、遺伝子組み換えを使った研究をしていました。

農学を専攻した理由は、研究・開発を通して世の中に新しい価値を生み出したいとの思いからでしたが、壁にぶち当たります。それは、農学領域で世の中に価値ある商品を提供するまでには、膨大なコストと時間がかかるという点でした。

例えば、薬を開発するとします。効果効能がきちんと立証された薬を売り出すまでには、膨大な研究・開発費用や、10年、20年といったスパンでの時間、そして多くの人材が必要となります。そして、このコスト、時間、人材は、自分一人ではどうすることも出来ない問題です。

この事実は、良いモノを生み出すためには何度も挑戦したい、スパン短く挑戦したいと思っていた私にとっては、大きな障壁に感じられました

そうやって壁にぶつかり、今後の進路について考えていた時に出会ったのが、ITでした。IT領域では、少額で商品開発を始められて、数カ月、数年スパンでの商品化が見込めます。そのスピード感に魅力を感じました

また、自分のキャリアを考えた時に、一つの会社に長く務めること、その会社の中でキャリアを築いていくこと、また年功序列の中で働き続けることをイメージできなかったこともITに舵を切った理由でした。自分のキャリア形成が一つの企業、一つの場所と密接に結びついてしまうことに、窮屈さを感じていたんです。

―なるほど。だから、新卒からIT企業で働き始めたんですね。なんでも、知り合いの方が経営していた会社だったんだとか。

はい、新卒ではITベンチャーに入社しました。入社当時、正社員は10人もいないくらいでしたね。

そんな規模感だったので、新卒からなんでもしました。具体的には、社内のインフラ整備、データセンターの構築、サーバの保守・メンテナンス、採用サポート、営業サポートなどです。法務系の資料作成も担当しましたね。少ない人材で会社を運営するべく、必要な業務は気づいた人、出来る人がやっていた感じです。

ここには、新卒の25歳から3年半ほど在籍しました。ITスキル云々よりも、精神的、体力的なタフさが身に付いたと思っています。

―20代後半は、様々な業務に挑戦されたんですね。そこから、サイバーエージェントに転職されたとのことなのですが、なぜ、このタイミングでサイバーエージェントだったのでしょうか?

サイバーエージェントで働くことで、上手くいっている、成長している大手IT企業の理由や雰囲気を知りたかったからです。

当時、その後のキャリアとして独立を考えており、多様で優秀な人材を獲得できている会社にとても興味がありました。優秀な人たちから「働き甲斐がある、働きやすい」と選ばれている会社で働くことで、今後の経営のヒントを探りたかったんです。

サイバーエージェントには、サーバのインフラエンジニアとして、3年半ほど在籍しました。優秀なエンジニアと働けたことは、今でも財産だと思っています。

―独立、経営という直近のキャリアを見越しての転職だったんですね。このサイバーエージェント在籍中に、現在経営している会社の事業である、ブロックチェーン技術に興味を持ち始めるんですよね。

はい。でも、ブロックチェーンに関する事業をサイバーエージェントで担当していたわけではありません。個人的にブロックチェーン技術に興味を持って調べていくうちに、その可能性に魅了されていきました。

ブロックチェーン技術の最大の特徴は、データの耐改ざん性と透明性の高さにあります。

ブロックチェーンとは、分散型ネットワークを構成する複数のコンピューターで、複数の取引情報などのデータを記録・管理し合う手法のことを言います。ある一定期間の取引データを「ブロック」単位でまとめて記録し、これらブロックをコンピューター同士で正しいデータかどうか検証し合いながら「チェーン」のようにつないで蓄積するため、ブロックチェーンと呼ばれています。

私は、このブロックチェーン技術に対して、Web3.0的な意味合いで、とても可能性を感じています。Web3.0とは、平たく言うと、サービスを提供するインターネット企業とサービスを利用するユーザーとのパワーバランスを均衡にし、これまではインターネット企業に一極集中していた情報からなる利益を、ユーザーが情報を管理することで享受できるようにする仕組みです。

Facebookを例にお話ししますと、facebookにユーザーが情報を投稿したとします。投稿する前までは、その情報はユーザー個人のモノでしたが、facebookに投稿された瞬間から、その情報は掲載元のfacebookのモノとなってしまいます。そのため、facebookでは投稿情報をデータとして収集・分析して、自社のサービスに還元するなどして利益を得ています。

しかし、Web3.0においてブロックチェーン技術が活用されることで、インターネット企業とユーザーの間にあるパワーバランスが崩され、インターネットの在り方をガラッと変えることができます。そうなれば、ユーザーにとっても利益あるインターネット形態にできると思い、ブロックチェーン技術を研究・開発することの意義を感じています。

―なるほど、ブロックチェーン技術に感じている期待感が、今の事業に結びついているのですね。現在はシンガポールを拠点にされていますが、何か理由はあるんでしょうか?

今の会社は、元々は2016年に日本で興しました。当初は、私がこれまで蓄積してきた知識と技術を活かせる、セキュリティ関連の事業で創業しました。それと同時に、ブロックチェーン技術の研究・開発も進めていましたね。

そして2018年、ブロックチェーン技術に対してフレンドリーな国であるシンガポールにも法人を設立しました。ほかにも、フレンドリーな国として香港や台湾も検討しましたが、税制面の優遇などを魅力的に感じ、シンガポールに決めましたね。

現在はシンガポールをメイン拠点に、日本向けにブロックチェーン技術に関する2つの事業を展開しています。

1つ目が、暗号資産をロックして報酬を受け取れるステーキングに関する事業で、現在、NEM・Cosmos・Kava・IOST・Waves・ETH2.0・Polkadotなどを手掛けており、Symbol・Plasmなども取り扱っていく予定です。2つ目が、そこから得られる知見を共有するメディア事業です。このほか、ブロックチェーン関連情報のリサーチやコンサルティングも請け負っています。

今は、業務委託も含めて10名ほどのスタッフと日本向けにビジネスをしていますが、今後はアジア向けにもサービスを展開したいと思っています。

―会社の拠点をシンガポールに置いて良かったと感じていることはありますか?

IT、デジタル分野におけるシンガポールと日本の違いをただ知れるだけでなく、シンガポールの一歩進んでいる技術を実際のサービスなどを通して体感できることです。

例えば、シンガポールでは、日本よりもデジタルIDの管理が進んでいます。このデジタルIDの管理は、Web3.0の観点から見ても重要なファクターです。そのため、今後この分野についてより深く学び、日本に還元したいと思っています。

どう進んでいるかと言うと、シンガポールでは、あらゆる情報が政府の発行するIDに紐づけられています。日本にもマイナンバー制度がありますが、まだまだ一元管理が出来ているとは言えません。

そのため、日本だと所定の公的機関に出向かないと手続きできない内容でも、シンガポールではIDを使ってオンラインで完結できてしまうのです。

コロナウイルスの世界的な流行の中、益々ITの活用やデジタル化は進んでいきます。オンラインで様々な手続きができることは、今後さらに求められていくことの一つでしょう。そのため、今後はデジタルID の管理領域についても進出したいですね。

このように、日本にいた時に比べて、日常生活の中で事業のヒントを得られる機会は多いですね。シンガポールに来て良かったことの一つです。

―それでは逆に、シンガポールで働く中で苦労したことはありますか?

沢山ありすぎて覚えていませんが、一番苦労したのは進出してすぐの頃ですね。

会社をシンガポールで登記するにあたり、シンガポールの法律をチェックし、理解する必要があったのですが、これがとても骨の折れる作業でした。法律の専門用語を英語で理解しなければならず、思っていた以上に時間がかかりましたね。

また、シンガポールでは住民票がないので、賃貸契約を結ぶのも大変でした。銀行に証明書を発行してもらうなどして対応しましたが、そういった国それぞれの商習慣を一つ一つ学ぶ必要があります。こういったことを楽しんでやれる人、粛々とやれる人は、海外生活に順応できると思いますね。

ただ、言語の問題で言うと、苦労はしましたが、なんとかなったと言えます

と言っても、私は英語が得意な方ではなく、2017年にシンガポール進出に当たって視察で来た時には、シンガポール人が何を言っているのかサッパリ分かりませんでした。そこで2018年に半年ほど、カナダのバンクーバーに短期留学しました。

海外で仕事をする、生活をすると、否が応でも英語でコミュニケーションを取らなければならないので、そんな中で少しずつ上達していきます。そのため、海外に挑戦する前から過度に英語を心配して立ち止まってしまうのは、モッタイナイと思っています。

―英語を不安に思って、海外に挑戦することをためらっている人は多いと思いますので、背中を押されると思います。それでは、今後の展望をお聞かせください。

現在のメインターゲットは日本ですが、ここを伸ばしつつも、アジアに展開できるサービス、プロダクトを開発していきたいと思っています。

もちろん、このサービスやプロダクトはブロックチェーン関連とし、シンガポールでビジネスをしていく中で得た気づきや学びを活かして進めたいと考えています。

また、会社の公用語が日本語なので、ゆくゆくは英語にしたいと思っています。せっかく海外に拠点を設けているので、本当の意味でのグローバル企業に育てたいですね。そのためにも、優秀な人材を採用していきたいです。

また、当面はシンガポールに住み続けたいと思っています。ブロックチェーン関連のビジネスをするにあたってフレンドリーであること以外にも、個人的にとても住みやすい国だと感じているからです。日本食も豊富ですし、シンガポール生活2年目に突入しましたが、特段日本が恋しいということもなく楽しんでいます

―それでは最後に、これから海外で働きたいと考えているエンジニアに向けて、一言いただけますでしょうか?また合わせて、英語学習に関するアドバイスもいただけると幸いです。

極論、誰でも海外で働けると思っています。

英語など言語の壁を感じて不安に思っている方は多いと思いますが、ことエンジニアに限ったことを体感ベースでお話しすると、そこまで高いコミュニケーション能力は求められないと思います。

なぜなら、エンジニアとして働く中での英語のコミュニケーションは、テキストベースであることが多いからです。そのため、ある程度の読み書きができれば、日常業務を遂行するのに問題はないと感じています。

また、コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、今はリモートワークが当たり前になっており、以前に比べて更にテキストベースでのコミュニケーションが増えています。この機会を好機と捉え、日本国内だけでなく海外で働くという選択肢を考えてみるのもいいと思います。

挑戦しないと、合格の確率は0%ですが、挑戦すると、不合格であったとしても自分の現状の英語力も見えてきます。まずは、挑戦してみるといいと思います

ここで私なりの英語学習法をご紹介すると、Youtubeを活用したシャドーイングがおススメです。

日本人は私含め、読めるけど話せないという悩みを持つ人が多いと思います。そこで、まずは英語を話すことになれる、英語が口から出てくるようにするためにも、聞いた英語を言葉にする訓練が効果的だと感じています。

私のやり方は、10分、15分くらいの短いYoutubeを録画しておいて、それを何度も繰り返し聞いては話す方法です。

おススメのYoutubeチャンネルはいくつかあるのですが、王道はBBCのラーニングイングリッシュですね。3分、5分くらいと短い動画も多いので、帰りに一駅分歩きながら声に出しています。

ここでのポイントは、同じ動画で一週間くらい続けることです。同じ教材を何度も聞いて話すことで、水曜日くらいからスラスラと話せるようになってきます。CMを聞き続けていたらメロディやフレーズを覚えてしまうのと同じ要領です。舌の筋肉が鍛えられますよ。

その他のおススメYoutubeチャンネルとしては、ニック式英会話ですね。よくある言い回しの短縮形を教えてくれて、とても勉強になります。また、可愛いアニメで教えてくれるあいうえおフォニックスもおススメです。ぜひ、試してみてください。

【オススメYoutubeチャンネル】

BBC Learning English:https://www.youtube.com/user/bbclearningenglish

ニック式英会話:https://www.youtube.com/channel/UCOk5YQTyq6B9lOZ1FqG54Jw

あいうえおフォニックス:https://www.youtube.com/channel/UCX2tvXwAItLs5RhFFSGn9LQ

【ステーキングサービス】

Stir Network : https://stir.network 

編集後記

今回は海外就職ではなく、海外起業を実践されている加門さんにお話を伺いました。起業という、もう一段階ハードルの高い挑戦をされている加門さんからは、仕事に対するより強い覚悟を感じました。

また、シンガポールと日本の違いから見えてくる、日本には足りない部分をよく観察されていて、それを日本に還元しようとする姿は印象的でした。ただ、ブロックチェーンフレンドリーな国でのびのび働くだけではなく、日本の発展を考えて事業に取り組む姿に感銘を受けました。

今後、加門さんの会社が日本のブロックチェーン分野を外から引っ張っていく、外から変えていく存在になるのが楽しみです。

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